「名犬 目検枷(めたてかい)



 平方天満宮 平方町の湖岸に近く、旧北国街道に面して、平方天満宮(てんまんぐう)という小さな神社があります。昔、この天満宮に、毎年近くの村から、一人ずつ娘を生きたまま神様に供(そな)える人身御供(ひとみごくう)の習わしがありました。

 ある年のこと、村にたいへん勇気のある男がいて、はて、何者がこの人身御供(ひとみごくう)を求めるのか、見どけてやろうと思い、近くの古い大木の陰(かげ)に身をかくして、時がたつのを待ちました。やがて、夕方になり、娘を乗せた御輿(みこし)を神さまの前に置いて、人々は立ち去りました。時が過ぎ、夜は次第にふけて、三日月の影(かげ)もぼんやりとなったころ、神社の後の湖岸のあたりが、にわかに波立ちさわぎ、みるまに、得体(えたい)の知れない怪物(かいぶつ)が現れ、水面から上がって来ました。

 境内(けいだい)は、ほとんどが闇(やみ)のような暗さ、生臭(なまぐさ)い風がさっと吹き、何者とも見分けのつかない怪物が、黒々とした姿で、何かブツブツつぶやきながらやって来ます。耳をすまして、よく聞いてみると、
「メッキに言うなよ。平方のメッキに言うなよ。」
と、いうふうに聞こえました。

 翌日、男は平方へ行き、メッキとは何者かとたずねたところ、それは神社の南側の小さな村に住むお金持ちが飼っている犬のことであることがわかりました。

 男はさっそくその人のもとへ行き、昨夜の出来事を話しました。そして、
「神様ならともかく、神でもない者が、生きた娘を供(そな)えるように求めるとは、もってのほかである。あなたの家の名犬目検枷(めたてかい)をおかりして、その怪物をたいじしたい。」
と、言いました。その人も、喜んでその愛犬をかしてくれると約束してくれました。

 翌年、また一人の娘が選ばれました。男は時刻を見計らい、目検枷(めたてかい)をかくれさせ、怪物(かいぶつ)の現れるのを今か今かと待ちました。やがて怪物は、前と同じ所から現れて来ました。メッキは、大きな木の陰(かげ)に男とともにひそんでいましたが、ここぞと怪物に飛びかかりました。

 かくて組んず組るんずの大格闘(だいかくとう)となり、2時間近くも争ったかと思われる頃、怪物は力つき、とうとう倒れてしまいました。しかし、メッキも大きな傷を受け、全力をあげての必死の戦いに、つかれはてたのでしょうか、男のみまもる中で、かわいそうにも息(いき)をひきとりました。

 その怪物とは、「かわうそ」だったとか、猿だったとも言われていますが、メッキのかみついた鋭(するど)い歯のあとが、いくつもその怪物の体に残っていたとのことです。

 現在、天満宮の社殿の横、石の柱で垣をめぐらしてある中に、小さな石が一つ置かれていますが、人々はこれを犬塚(いぬづか)と呼び、目検枷(めたてかい)のお墓(はか)であると伝えています。この石に触れた手で、歯の痛(いた)むところをなでると、その痛みが止まると言われています。目検枷(めたてかい)の歯の強さにあやかってのことではないでしょうか。

 目検枷は目建解とも書くそうです。

(「長浜のむかし話」 長浜市老人クラブ連合会:刊 1977/02 参照)





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(最終更新日 : 1998/01/31)
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