「飛天神(ひてんじん)



  龍が鼻(たつがなは)に近いところですから、龍の頭に当たるところでしょうか。ここ垣籠(かいごめ)村の一帯は、上坂田郷(かみさかたごう)の王であった一族の立派なお墓(はか)が群(むら)がっていましたので、けがれがなく美しい土地として広く垣(かき)をめぐらしていました。山の頂(いただき)にも同じように円(まる)く土を盛った二つの墓が並んでいました。その墓の少し北の方に、どなたかをお迎えするような形をした大きい岩がありました。

 建久元年3月18日、深く積もっていた雪もとけて、ようやく春めいた朝、まだ明けやらぬ南の空に一条の光りがあらわれ、みるみる輝(かがや)きを増したかと思うと、この頂(いただき)の石に神様がお立ちになりました。天満大自在天神様(てんまんだいじざいてんじんさま)が、この清らかな土地をお選びになって降り立たたれたのでした。

 天神様がお立ちになった岩には、今も御足(みあし)の跡(あと)が残っています。人々はこの神様を「飛天神」と呼び、この岩を「天神岩(てんじんいわ)」と呼んであがめています。近くには古代文字らしいものがたくさん刻(きざ)まれた船型(ふながた)の岩があります。村人は、以後永(なが)く天神様と古墳(こふん)の多いこの清く美しい土地を守ってきました。


(「長浜の伝承」長浜市教育委員会:編 参照)





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(最終更新日 : 1998/08/24)
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