「姉川と妹川」



 遠い、昔のはなしです。伊吹の山では、毎日毎日雨が降(ふ)り続きました。ひと月たっても、ふた月たっても雨はやみそうにもありません。とうとう、半年あまりも雨は降り続きました。伊吹山のおなかは、雨でいっぱいになってしまったのです。それでも雨はまだやみません。伊吹山のおなかは、いまにもはちきれそうになりました。

 もうこれ以上、おなかに水をためることができません。もしも、伊吹山のおなかがはちきれたらどうなることでしょう。雨水は、どうっと里のほうへ滝(たき)のように流れ出して、湖北の里は田んぼはもちろん、森や村もみるみるうちに大水に流されて、そこに住んでいる人も生きものも、一人残らずおぼれ死んでしまうことでしょう。

 そのころ、伊吹の山に二人の美しい姫が住んでいました。娘たちは、なんとかして川をつくって、この雨水を通して、人びとを救(すく)いたいと思い立ちました。
 娘たちは、伊吹の山の中ほどにやって来ました。中腹(ちゅうふく)は山のおなかで、大きな池でした。池の水はもうあふれるばかりになっていました。二人の姫は池のそばに立って、手を合わせて神にいのりました。そして、たちまち身をひるがえし、池に飛びこみました。と、見る間に黒い雲が池にたちこめ、娘たちの姿は竜(りゅう)となって、池のせきをきって、大きな音とともに、伊吹の山を下っていきました。竜が下っていったあとは、二筋(ふたすじ)の大きな川となって遠くびわ湖にまで達(たっ)したのです。

 里の人びとは、姉さん竜の通った川を姉川、妹の竜の通った川を妹川と呼んで、今も美しい二人の姫のつくってくれたこの川を愛し親しんでいるのです。
 二つの川は、いつ見ても美しい流れでびわ湖に達しています。

(「湖北 ながはま」 長浜青年会議所:刊 1983/04 参照)





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(最終更新日 : 1997/10/26)
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