幻住庵の記 (5) |
(芭蕉47歳:元禄3年4月6日〜7月23日) |
芭蕉の人生や俳句への思い
かく言へばとて、ひたぶるに閑寂(かんじゃく)を好み、山野に跡を隠さむとにはあらず。やや病身、人に倦(う)んで、世をいとひし人に似たり。つらつら年月の移り来し拙(つたな)き身の科(とが)を思ふに、ある時は仕官懸命の地をうらやみ、一たびは佛籬祖室(ぶつりそしつ)の扉に入らむとせしも、たどりなき風雲に身をせめ、花鳥に情(じょう)を労じて、しばらく生涯のはかりごととさへなれば、つひに無能無才にしてこの一筋につながる。「楽天(らくてん)は五臓の神(しん)を破り、老杜(ろうと)は痩(や)せたり。賢愚(けんぐ)文質(ぶんしつ)の等しからざるも、いづれか幻(まぼろし)の住みかならずや」と、思ひ捨てて臥(ふ)しぬ。
先づ頼む椎の木も有り夏木立
(まずたのむ しいのきもあり なつこだち)
|目次へもどる|
Last Update 1998/11/17
Copyright(C)1999 Hideo Hirobe