2年生国語科 「方言を調べよう」
1.はじめに
本校では、本年度よりマルチメディア研究委員会を発足させ、情報教育のあり方を模索し始めたところです。
そのため、委員会の主任としては、とにかく先鞭をつけなくてはと、考えていたところ、下記のようなチャンスが巡ってきました。
2.方言の指導に寄せて
本年度から、滋賀県北部の中学校国語科の教科書が教育出版のものに変わりました。2年生の最初の教材は、「季節をうたう」と題して、2編の詩が載っています。「春でぇむん」(照屋林賢)と「麗日(オデンキ)」(一戸謙三)です。2編の詩とも、方言で表現されたものです。「春でぇむん」は琉球方言、「麗日」は津軽方言です。最初の生徒の反応は、「おもしろいなあ」「何いってるのか、わからへん」のどちらかに二分されました。
日頃から、子どもたちの生活の中で「長浜弁」が息絶えつつあるのに心を痛め、あえて教室で長浜弁を使うように心がけてきた私は、このチャンスを逃してはいけないと考えました。言葉は、文化です。今日、「21世紀は地方の時代」と言われ、自治から文化までが見直されつつあります。方言という地域に根ざした文化を見直すことは、意義あることと考えました。
方言は、言語体系です。日本語だけでなく英語でもフランス語でも中国語でも、各民族の言語は、考えようによっては、方言の集合体と考えた方が自然です。言葉は、そのまま民族なり地域なりの風土や歴史と深く結びついています。取り組み方次第によっては、大変な学習になりそうです。
うれしいことに、教育出版の教科書には、「言葉の研究室1 方言と共通語」という単元もあるではありませんか。これに、今、取り組んだところで、何ら問題は起こりません。
子どもたちの方言に対する偏見を取り去るには、目を全国の方言に向けさせるにこしたことはありません。日本語は方言の固まりだということに気づかせるには、これに限ります。
そこで、インターネットの力を借りて、各地方の方言に関するホームページを調べればどうだろうか。インターネットの疑似体験的な学習が展開できるのではないかと考えました。
すなわち、方言は地域性の高い題材で、なかなか扱いにくい(資料の集めにくい)内容を持っていますが、それでこそ、インターネットの情報収集力を借りる値打ちがあるだろうと考えたのです。
3.学習のねらい
- 「方言」に興味を持ち、その特性をとらえて、生きた言葉としての価値に気づく。
- 多くの資料の中から、自分にとって価値あると考えられる情報を選択するだけでなく、情報を積極的に求め、表現しようとすることについて自分の考えを豊かにする。〔A表現 (1)−ア〕
- 資料を必要に応じて要約する。〔B理解 (1)−ア〕
4.展開の大要
(1)方言で書かれた詩を読み、方言に興味を持つ。〔1時間〕
(2)生徒に興味を持った地方の方言を調べる。〔3時間〕
a. 全国の方言に関するホームページをプリントアウトして渡す。(指導者)
b. もっとほしい情報があれば、その内容を明確にして、指導者に依頼する。(指導者)
c. ホームページの作者に質問したいときは、メールを出す。(指導者)
(3)B4用紙(横長・横書き)に、ホームページをまねて、レポートを書く。〔2時間〕
(4)仕上げたレポートを交流する。〔1時間〕
5.方言の特徴をつかむために「学習のポイント」としたこと
(1)他の言葉と比較する。(共通語、近隣の方言、私たちの長浜弁)
(2)あるまとまった言葉のグループに傾向が見られないか調べる。
(3)言葉の由来について調べる。
○地域性(風土や交通)
○歴史性(封建時代の歴史に注意)
○古語との関係
例:「もうで来たる」(「竹取物語」)……「もんで来る」(長浜弁)
(4)おもしろく興味がわく単語を集める。
6.メールについて(パソコンが使えないので、とりあえずカードに書く。)
(1)先生へ
「こんなことをもっと調べたい。」
「こんなホームページを探してほしい。」 など
(2)ホームページの制作者の方に質問。
「こう書いてありますが、どうしてですか。」
「どんな場合に使うのですか。」
「他の場合は、どういうのですか。」 など
7.利用させていただいたホームページ
○ふるさとの方言 (山本和英@ ATR音声翻訳通信研究所)にリンクされている全国各地の方言のHP
8.生徒のメールにお返事をいただいた方々
(京都弁)Kyoto Shimbun 柳田 様(kpdesk@mb.kyoto-np.co.jp)
(土佐弁)大野加恵 様(PXS01705@niftyserve.or.jp)
(金沢弁)坂根功一 様(pkp@jsn.justnet.or.jp)
(長崎弁)名切恭昭 様(nakiri@nams.kyushu-u.ac.jp)
(広島弁)坂口琢哉 様(t95411ts@sfc.keio.ac.jp)
(茨城弁)柳澤健之 様(yanagi@hc.tu-tokyo.ac.jp)
(伊予弁)Koji ANDO 様(chutzpah@ecc.u-tokyo.ac.jp)
(大阪弁)大西 功 様(onishiya@osk2.threewebnet.or.jp)
9.生徒のレポート
10.レポート交流会の約束
(1)見るポイント
a. キャッチコピー(タイトルに「おっ!」と思える工夫があるか。)
b. 全体の見栄え
c. 内容
※個性が感じられるか。(オリジナリティ)
※よく調べられているか。
※「学習のポイント」が押さえられているか。
(2)推薦レポート探し
a. 探して、用紙にサインする。(6名……およそ各班1名程度)
b. 条件
※自分が責任を持って、友だちに薦められるレポートを探す。
※公平な立場で、判断する。
※狭い仲良しの友だちの間だけで活動せず、クラスみんなのを見て学習する。
11.終わりに
(1)インターネットについて
パソコン教室からインターネットにアクセスできれば、一番いいのですが、情報の収集、選択、それから整理、発信など、パソコンは使えないものの、インターネットの基本的な概念は押さえられたように感じています。
また、メールを出した相手の方から生徒だけでなく私自身への励ましをいただいたりして、教科書では味わえない体験をさせていただきました。
- 「インターネットの利用は正解だと思う。方言を調べるといっても、その地方に住んでいる人にしか分からない言葉があるから、その地域の方のホームページは、すごくよかった。」(I)
- 「そこに住んでいる方が、メールを送ってくださり、自分たちで調べるより、正確なことが分かってよかったです。」(T)
- 「たくさんの情報があって、すごくやりやすかったです。自分たちで、直接インターネットをやりたいなあと思いました。」(K)
- 「自分で調べたり、情報を選んだりするのが、すごく楽しいし、何かやりがい(?)を感じました。これからどんどんインターネットを利用して、学習ができたら、もっと勉強がんばれそうです。(Y)
- 「失礼だけど、先生に教えていただくよりも詳しく分かったんじゃないかなと思いました。だた、発音だけが分からなくて残念でした。」(K)
(2)方言について
子どもたちは、生き生きと活動しています。お互いに、調べた言葉を言い合ったり、言葉の由来に興味を持ったり、自分たちの言葉との共通点を見つけて不思議がったり、文法を調べだしたりと、言葉に関して幅の広い学習になりました。
- 「今まで方言に興味を持った事なんて一度もありませんでした。でも、教科書に方言の詩が出てきて、おもしろい言葉だ!と思って、もっといろんな事が知りたくなりました。今回、その興味を持った津軽弁を調べましたが、いろいろなことが分かって楽しかったです。いつか、いろんな所に出かけて、その土地の方言を使ってみたりしたいです。方言があるのは日本だけかなあ。」(Y)
- 「とてもおもしろかった。もっと違う方言も調べてみたい。たっぷりと時間をとって、他の所も調べてみたい。自分も使っている方言があったときは、なせが、うれしくなったりした。」(M)
- 「ある地域の自分たちとは違う言語文化に触れ、とてもいい勉強になったと思う。方言を恥ずかしがらずに、自慢し合えるくらい大事にできるといいなと思った。」(K)
- 「私は、方言について、あまりいいイメージを持っていませんでした。けれど、調べてみて、方言というのはおもしろいし、そこに住んでいるという証みたいなものだなと思いました。もっと時間があれば、いろんな方言を調べてみたかったです。とにかく、すごく楽しかったです。」(M)
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(最終更新日 : 1997/10/12)
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