平成１２年９月３日（日）〜１１月５日（日）

２ 　会　　場

国友鉄砲の里資料館 １・２階展示室

３ 　趣　　旨

今年は、関ケ原合戦４００年の記念すべき年です。この合戦での両軍の将である石田三成と徳川家康は、国友鉄砲と深いつながりをもっています。
三成が佐和山城主であった時、国友の鍛冶たちはその支配下にありましたが、関ケ原合戦を前にして家康側についたと言われています。
家康が豊臣家の滅亡を図った大坂冬・夏の陣。その準備の為の大量注文により、国友は火縄銃の一大生産地に成長しました。
この展覧会では、関ケ原合戦直前から大坂の陣への国友鍛冶の動きを、三成・家康との関わりに重点を置きつつ、絵画・絵図・古文書などにより再現していきたいと考えています。

４ 　展示資料

【第１部】 三成と関ケ原合戦

石田三成は、天正18年(1590)佐和山城主となり、湖北四郡を領有するようになる。その後、文禄５年(1596)３月には国友藤二郎・国友与作らにそれぞれ100石を宛行っているが、これも領内での鉄砲製作を奨励したものであろう。
慶長５年(1600)９月15日に起きた関ケ原合戦では、領主三成の命によって製作された多くの国友銃が、三成軍に装備されたとみられる。
従来、徳川家康が慶長５年４月、国友鍛冶に鉄砲密造を命じたと言われる。それが事実であっても、同年の７月28日、三成は従前通りの鉄砲製造を命じており、三成と国友鍛冶とのつながりは、関ケ原合戦まで続いていたことが知られる。



1	石田三成判物(国友助太夫家文書)	１通	大阪府個人蔵
2	石田三成判物(国友助太夫家文書)	１通	大阪府個人蔵
3	関ケ原合戦図	１枚	長浜城歴史博物館蔵
4	佐和山界隈絵図	１枚	長浜城歴史博物館蔵
5	関ケ原記大全	１冊	長浜城歴史博物館蔵

慶長９年(1604)頃、徳川家康は、砲術家稲富一夢を仲介に、国友鍛冶に対して50匁・100匁玉筒を発注した。ここに国友と徳川幕府の250年にわたる関係が始まる。
国友鍛冶は慶長９年から元和元年(1615)までの11年間にわたって、600挺以上の鉄砲を製作した。それらは、３匁筒から１貫目筒まで多種に及んだことが分かっている。この家康による大量発注によって、国友は江戸時代の鉄砲工場としての地位を不動のものとした。
大坂冬・夏の陣で国友鉄砲は大いに活躍する。冬の陣では、国友などの大鉄砲300挺が砲列を敷き、昼夜を分かたず大坂城中を攻撃した。この砲撃が城内の戦意を喪失させたことは、あまりにも有名である。夏の陣でも６匁筒などが野戦で火を噴いた。
大坂の陣の後、家康は国友鍛冶に葵紋付の着物や、白銀10枚、それに国友村の村高900石余を与え、その功に酬いた。



6	成瀬隼人正定書写(国友助太夫家文書)	１通	大阪府個人蔵
7	稲富一夢大砲請取状(国友助太夫家文書)	１通	大阪府個人蔵
8	大岡伝左衛門鉄砲請取状写(国友助太夫家文書)	１通	大阪府個人蔵
9	加藤源四郎鉄砲預状(国友助太夫家文書)	１通	大阪府個人蔵
10	大坂の陣図(国友助太夫家文書)	１枚	大阪府個人蔵
11	大坂夏の陣図	１枚	長浜城歴史博物館蔵

５ 　関連事業

■ 特別展記念講演会

日時	平成１２年１０月１日（日） 午後１時30分〜３時30分
会場	国友町会館
演題	大坂の陣と火器の役割−国友鉄砲と関連して−
講師	渡辺 武氏（大阪城天守閣前館長）

日時	平成１２年１０月１日（日）　午後４時〜７時
会場	国友町日吉神社境内

日時	平成１２年９月９日（土） 午後７時〜９時
会場	国友町会館
内容	「決戦関ケ原大垣博」で製作されたＤＶＤビデオを鑑賞し、国友鉄砲と関ケ原合戦の関係を学ぶ勉強会。
対象	主に小中学生

主な展示史料

◆ 石田三成判物（イシダミツナリハンモツ）……１通

関ケ原合戦の２ケ月程前、石田三成が国友鉄砲鍛冶に対して、天正３年（1575）以来長浜城主であった秀吉が出した命令を遵守し、新たな行動を取らないよう命じた文書。

この時、三成は佐和山城にいて、徳川家康との合戦の準備を着々と進めていたが、本書は国友鉄砲鍛冶たちが、鉄砲を自軍のみに供給し、家康側に流さないよう対策を講じたものと判断できる。有馬成甫氏は、その著『一貫斎国友藤兵衛伝』（昭和７年刊）で、三成は国友がひそかに家康方に鉄砲を納入したことを察知し、それを追求した文書であるとしている。しかし、本書をそのように解釈するには、文言の上でも無理があろう。

なお、本書は宛名が故意に切断されている。一方、『改訂近江国坂田郡志』は「神照村国友斎治氏文書」として、本書を掲載しているが、宛名は「富岡藤太郎」となっている。この『郡志』の記述を信用すれば、近代になってから宛名が切断されたことになる。

【慶長５年（1600）、タテ29.4cm×ヨコ39.5cm】

国友吉一が描いた大坂夏の陣の図である。左側に城郭を描き、右側から寄せ手を描いてる。寄せ手側は、鉄砲の放列を敷いている。画面左下に「嘉永元年五月／国友吉一写」とあり、筆写年代と作者が表記されている。さらに、本図は「大阪落城図一張」と墨書された袋に入れられ、「嘉永元年己申五月中旬一日半写／国友助太夫吉一蔵」と袋表題の両脇にある。これらから、筆者の吉一は国友助太夫家の幕末の当主であったことが判明する。

本図は、出羽山形城主最上家に伝わった「最上屏風」と呼ばれる大坂夏の陣図の模写であることは、その絵の内容から明らかである。「最上屏風」は２曲１隻の小屏風で、大坂の陣の際、江戸留守居役を命じられた最上家親のために、家康が合戦の模様を描いて贈ったとも、夏の陣に参陣した家親の家臣が、主君に奉ったとも言われる。確かに、本画左には「右大阪落城之図一張者／東照宮御直被　仰付御留守番へ被下置」との墨書がある。 　最上家は元和８年（1622）に除封となるが、その後「最上屏風」は山形の光禅寺に納められていた。寛政末年頃、当時の山形城主秋元氏の家臣小俣七郎が、その模本を作ってから、屏風の存在が世に知られるようになった言われる。
その後、明治27年５月26日の山形大火で、光禅寺の原本は焼失、模本のみ何種類か現存することになった。現在、大阪城天守閣に２種類ある他、東京大学史料編纂所や徳川美術館など、合計で７点ほどの模本の存在が知られている。

本図は表装されいないが、その模本の一つである。特に、国友鉄砲鍛冶自身が描いたものである点が興味深い。大坂の陣に向けての家康からの鉄砲注文と、それへの参陣が、国友の鉄砲生産地としての地位を不動のものにしたとみられるが、本図はこの事実を後世に語り継ぐため、鍛冶師自身が「最上屏風」を写し取ったものと理解できる。

なお、大坂夏の陣図とては、大阪城天守閣所蔵の６曲１双屏風である「黒田屏風」（重要文化財）が、最もよく知られているが、「最上屏風」は内容的にまったく異なるものである。

【嘉永元年（1848）、タテ89.3cm×ヨコ178.5cm】