「方言の話」（小学生や中学生のみなさんへ）

方言の話　（小学生や中学生のみなさんへ）

はじめに
言葉づかいについて
方言について
共通語について
方言と共通語

はじめに　（ことばについて考えてみよう）

　みなさんは、人は、いつごろから「おしゃべり」を始めたのだろうかとか、日本語ってどうしてできたのだろうかとか考えたことがありますか。

　漢字は、その昔、中国から伝わってきました。ひらがなやカタカナは、私たちの祖先

（そせん）

が漢字を元にして作り出しました。でも、話し言葉は、それまでからあったはずです。

　このことを考えたり、調べたりすることは、私たち日本人のふるさとを考えることになるような気がしませんか。

　私たちの書き言葉、つまり文字は、古代遺跡

（こだいいせき）

からの出土品や現代まで伝わっている文献資料

（ぶんけんしりょう）

によって、徐々

（じょじょ）

に分かりつつあります。

　しかし、昔は、話し言葉を記録する方法はありませんでした。私たちの祖先が、どんな話し言葉を使っていたのか、本当のところを完全に調べる方法はありません。書き言葉から想像するしかないのです。

　けれど、日本語の由来

（ゆらい）

を研究している方たちは、いくつかの方法を考え出しました。

　一つは、「方言」です。方言を調べていくと、古い時代の言葉が残っていることが分かってきました。京都は、長い間、日本の都でした。つまり、日本の中心でした。現代の流行が東京から広がっていくように、昔は、様々な流行が京都から地方へと広がっていったのです。言葉も同じです。京都を中心に同心円

（どうしんえん）

いたとき、同じ円周上

（えんしゅうじょう）

に似たような言葉（方言）が残っているといいます。しかも、それは京都から遠く離れれば離れるほど、古い時代の言葉なのだそうです。

　もう一つは、私たち日本人のふるさとであるアジアの国々や太平洋の南の島々の言葉を調べて、日本語と比べてみる方法です。同じ祖先から別れた言葉同士なら、どこかに似たような部分が残っているはずです。

　こうした研究によって、私たちの祖先の話し言葉が少しずつ分かってきました。

言葉づかいについて

　日本には、日本語以外にもアイヌ語などの少数言語があります。しかし、多くの場合、普段

（ふだん）

は日本語を使っていて、みんな同じような気がしていることが多いものです。

　しかし、よく考えてみると、地域によって、あるいは、年齢

（ねんれい）

によって、男女によって、さらにいえば、一人ひとりによって、食べ物（調理方法）の好み、衣服の好み、履き物

（はきもの）

からものの考え方まで違います。

　言葉も、同じです。その人が、どこで生まれ育ったか、男性か女性か、どんな生活を送ってきたか、などによって異

なります。また、同じ人が使う言葉も、話し相手や場面によって変わります。

　つまり、言葉づかいと一言で言っても、それは一つのものではなく、多様

（たよう）

なものだということです。

方言について

　方言はどうしてできたのか、と考える人がいるかも知れません。しかし、共通語が後から作られたのであって、その土地その土地の言葉、つまり方言が先にあったのです。誰

かが作ったわけではなく、昔からその土地の人々が生活する中で、その暮

らしに合うように言葉が変化していったものでしょう。

　「万葉集

（まんようしゅう）

」（奈良時代）という歌集を知っていますか。その中に東歌

（あずまうた）

（さきもりのうた）

という歌が合計３００首ほどあります。それらの歌は、当時の東国地方の方言で歌われています。

　また、室町時代には、　「京へ筑紫

（つくし）

（ばんどう）

さ」という諺

（ことわざ）

があったそうです。これは、「どこそこへ」と言う場合に、京都では「○○へ」、筑紫（九州）では「○○に」、板東（関東）では「○○さ」と言っているということです。

　同じ室町時代に編集された「菟玖波集

（つくばしゅう）

」（１３５６年）という連歌集

（れんがしゅう）

には、次のような歌が載

っています。

　「草の名も所によりてかは

るなり　難波

（なにわ）

（はまおぎ）

」　（救済法師　巻１４・雑３）

　これも地方によって言葉が違うことを表しています。難波（大阪）で「芦」と呼んでいる草が、伊勢（三重）では「浜荻」と言っているというのです。

　昔から、人々は、それぞれの地域で使われる言葉の違いに気づいていたのですね。そして、その違いというのは、そうした単語だけではありません。アクセントや音韻

（おんいん）

、さらには文法までが違います。つまり、地域で使われる言葉のシステム全体が違うのです。

　当時の多くの人々

（人口の９０％は農民）

は、それぞれの地域の言葉だけを使って生活していたと考えられます。もちろん、江戸時代までは、日本人が同じ言葉を使うべきだといった考え方はなかったのです。

共通語について

　明治時代になると、言葉についての事情が変わってきます。日本の社会を一つにまとめていく必要が生まれたからです。つまり、当時の政治家の間で、欧米

（おうべい）

の先進国に対抗

（たいこう）

するために、国民が一つにまとまらなければならないという考えが生まれてきたのです。

　軍隊が組織

（そしき）

され、近代的な工業が興

り、学校制度

（せいど）

（どうにゅう）

され、物も人も全国規模

（ぜんこくきぼ）

で行き来し始めました。そういう状況

（じょうきょう）

で、言葉が通じないということは、大変不便なことです。

　例えば、

　「その従者

（じゅうしゃ）

（じゅんすい）

の鹿児島言葉であるから、他郷

（たきょう）

の人には頓

と話が分からぬ」（渋沢栄一「雨夜譚」）

といった不都合

（ふつごう）

があったというのです。

　そこで、標準語（公用語）が求められ、国民みんながそれに従

（したが）

うべきだという方針

（ほうしん）

が出されました。そして、江戸言葉（山の手言葉）を元

にした標準語が、国の文化政策者

（せいさくしゃ）

を中心に、学校、新聞、放送、文学者などを通じて徐々に広められていったということです。

　特に、その普及

（ふきゅう）

に力があったのは、「言文一致体

（げんぶんいっちたい）

（こうご）

文章による文学作品で、その最初の作品は、二葉亭四迷

（ふたばていしめい）

（うきぐも）

」（明治２０年）だとされています。

方言と共通語

　その後、共通語が普及

（ふきゅう）

して、方言との使い分けが生じてきました。

	方　　　言	共　通　語
長所	○ 言いたいことが的確（てきかく）に表現できる ○ 感情表現にふさわしい ○ 親しみを感じる	○ 品がいい ○ すっきりしている ○ どこでも通じて便利
短所	○ 田舎（いなか）くさい ○ 古めかしい ○ 通用する範囲（はんい）が狭（せま）い	○ 情がこもらない ○ よそよそしい
使用場面	○ 私的（してき）な場面 ○ 個人を相手にする場合 ○ 親しい人との会話 ○ 個人の話し言葉	○ 公的（こうてき）な場面 ○ 多くの人を相手にする場合 ○ 見知らぬ人を相手にするとき ○ 書き言葉

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（最終更新日： 1997/09/07）
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